肥料を科学する

肥料の物理的性質は、化学組成および生成方法によって決定されます。肥料の取扱い、保管、および機械散布のために最も重要となる製品特性は以下のとおりです。

    • 吸湿性
    • 固結のしにくさ
    • 粒の形状と粒径のバラつき
    • 粒の強度と機械的抵抗力
    • 粉塵の発生傾向
    • 比重
    • 化学的、物理的観点からみた親和性

吸湿性

空気中には水蒸気という水分が存在するので、湿度および温度によって決定される水蒸気圧(p H 2 O)という指標があります。暖かい空気は冷たい空気よりもより多くの水分を含みます。含水量は、相対湿度(RH)で表す事が出来ます。相対湿度とは、一定の温度において空気が保持できる最大の水分量に対する空気中の水分量の比率となります。

例えば、空気が水蒸気で完全に飽和されている場合には相対湿度(RH)は100%となり、半飽和の場合には相対湿度(RH)は50%となります。水蒸気は、上の図のように高い水蒸気圧から低い水蒸気圧の方へと移動します。

気温30℃で相対湿度(RH)が100%の場合、1立方mの空気中には30.4gの水分が含まれておりますが、空気の水蒸気圧は湿度および温度によって変化します。

すべての肥料は、多かれ少なかれ吸湿性があり特定の湿度または特定の水蒸気圧で水分を吸収し始めます。非常に吸湿性の高い肥料は、他のものよりもずっと早く、また空気中の湿度が低い状態でも吸湿します。 空気の水蒸気圧が肥料の水蒸気圧を超えると吸湿が始まります。

肥料の保管中や取扱い中に吸湿すると品質が低下します。 気温と湿度ならびに肥料の表面温度を知る事によって吸湿が起こるかどうかを判断する事が出来ます。

典型的には、水分吸収曲線は低湿度(図のように)で上昇のスピードが緩いが、ある湿度または湿度範囲で急激に増加し始めます。この湿度範囲を肥料の臨界湿度といいます。温度が上がれば臨界湿度は下がります。

著しい吸湿は肥料に望ましくない結果をもたらします。

・粒が徐々に柔らかくなり粘着質になる
・粒の体積が増える
・粒が割れ始める
・粒が漂白され色が変化する
・粒の強度が低下する
・固結しやすくなる
・粉塵や埃が増える
・保管倉庫の床が湿って滑りやすくなる
・単肥の硝酸アンモニウム肥料の場合は熱安定性を失う
・機械撒きの精度が悪くなる
・装置が目詰まりを起こす
・規格外製品の発生が増える

2つ以上の成分が入った混合肥料は、グラフに見られるように単肥よりも吸湿性が高くなる傾向があります。

固結

大部分の肥料は、保管中に固結し易くなる傾向があります。固結は粒子間に出来る結晶が接着剤の様になって粒子同士を結合させる事によって起こります。固結にはいくつかのメカニズムがありますが、代表的なものは次のようなものです。

  • 肥料粒子内で起こる化学反応
  • 肥料粒子表面が潮解し再結晶化する
  • 肥料粒子表面間の接着力および毛細管作用

いくつかの要素が固結の原因となり得ます。

  • 空気中の湿度
  • 温度および気圧
  • 製品の水分含有量
  • 粒子の強度と形状
  • 化学組成
  • 保管時間

固結は、これらの要素がコントロールされているとある程度は抑える事が出来ますが、適切な固結防止剤を入れる事がしばしば必要となります。硝酸カルシウムには、固結の傾向が少し見られますが、NPK化成、アンモニア窒素および尿素では固結の傾向がより顕著となります。肥料のコーティングは製品の吸水率を低下させる役割があります。

粒の形状と粒径のバラつき

プリル状の肥料は、通常滑らかでガラス状の表面となりますが、顆粒状の肥料の表面はものによって大きく異なる事があります。通常、顆粒はプリルよりも粗く不均一です。粒表面の色は、肥料製造で使われる原材料によって、また粒を着色するために添加される無機または有機顔料によって変わってきます。

粒径のバラつきは、機械撒きをする際に重要となる特性です。肥料が、バルクブレンド(BB)である場合は特に重要となります。

粒の強度と力学的抵抗力

肥料粒の粉砕強度は化学組成によって大きく異なります。上記は様々な肥料のタイプで測定した破砕強度です。吸湿はほとんどの肥料に悪影響を及ぼします。粒が粘着性になり崩壊し易くなります。

力学的抵抗力とは肥料を取り扱う際にかかるストレスに抵抗する力のことです。力学的抵抗力は粒の表面構造および強度によって作用されます。

粉塵の発生

大量の肥料粉塵は、生産現場を劣悪な環境にします。したがって、ほとんどの国では肥料生産時に発生する粉塵の排出は法律によって制限されています。粉塵は、通常以下に挙げる作用により生産中に発生します。

  • 吸湿
  • 表面構造および粒強度が貧弱
  • 力学的抵抗力が低い
  • 生産時にかかる機械的ストレス
  • 肥料生産機器(スクレーパー、スクリューフィーダー、トリマーなど)の摩耗

比重

肥料の種類によって、嵩密度または体積比重(kg / m3)が異なります。粒子のバラつきは比重に影響を与えます。機械撒きでは、粒子のバラつきが最小限である事が重要となります。

化学的、物理的観点からみる親和性

親和性は、主に異なる肥料を混合する場合に異物混入(コンタミネーション)、安全性や品質等他の問題に関連してきます。例えば、固結、劣化、粉塵の発生、また硝安の場合は熱に対して発火性を抑える耐性が失われる事などが挙げられます。

  1. 双方に吸湿性向があるため、硝安のグレード(等級)によって、保管性に影響を及ぼす事があります。
  2. 混合物(硝安と硫安)の爆発性に関する安全上、法律上の注意事項に留意する必要があります。
  3. 混合物(硝安と硫安)の爆発性、遊離酸および有機不純物の影響(存在する場合)に関する安全上、法律上の注意事項に留意する必要があります。
  4. 混合するとすぐに吸湿し液化またはスラリー状になります。また安全性にも留意する必要があります。
  5. 遊離酸が存在すると硝安の分解が非常に遅くなり、製品の包装時等に影響を与える可能性があります。
  6. 自然分解の可能性とオイルコーティングの程度に気を付ける必要があります。
  7. 硫黄は可燃性でありAN、KNO3、NaNO3等の硝酸塩と反応することがあります。
  8. 双方に吸湿性向がありますので、硝安のグレード(等級)によって保管性に影響を及ぼす事があります。
  9. 過リン酸石灰と重過リン酸石灰の含水率に気を付ける必要があります。
  10. 混合時の相対湿度に気を付ける必要があります。
  11. 石膏化するリスクがあります。
  12. 実績はありませんが親和性はあるものと予想されます。実験・分析によって検証する必要があります。
  13. 硫安に含まれる不純物、また混合すると臨界相対湿度が低下することに気を付ける必要があります。
  14. 硝酸塩の分量が多い場合に影響が出る可能性があることに気を付ける必要があります。
  15. リン酸アンモニウム、硝酸カリウムが尿素に反応する可能性と、固結を防ぐために混合中の相対湿度に気を付ける必要があります。
  16. 遊離酸が存在すると尿素が加水分解し、アンモニアと炭酸ガスが発生する可能性があります。
  17. 非常に粘着性の高い尿素リン酸塩が形成されます。
  18. 吸湿による潜在的な固結発生の問題があります。
  19. 遊離酸が存在するとアンモニアによる中和、炭酸塩により酸が壊される等のリスクに気を付ける必要があります。
 

本記事は、Yara英国法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。

Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~

Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。

また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。

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