窒素単肥を注文する前に窒素以外の栄養素(リン酸、カリ、カルシウム、硫黄等)を含んだ複合化成肥料の方が実情にマッチする可能性があるため、実際に窒素単肥がほんとうにベストな選択なのかを検討する価値があります。
農場での議論はしばしば窒素の価格が中心となって展開することが多いですが、注文する前に実情に即して必要なものを確認して購入することが重要です。
作物が実際に必要とする栄養素が含まれた肥料を購入する必然性
窒素単肥以外の肥料を検討するのはあたりまえの様に聞こえるかもしれませんが、実際に春になってみて窒素以外の栄養素が必要となった時に既に注文してしまった窒素単肥の山を前にして、これらをどうやって使ったらいいのか?という議論が毎春繰り広げられているのが実情です。
どの様な窒素肥料を使うのが農学的に正しい選択なのか?という問いに対しては順を追って考えることで選択肢の幅を狭めていくことが出来ます。最初の設問は「硫黄は必要ですか?」です。 その答えが「はい」の場合次の設問は「硫黄管理の方法はどのように行いますか?」ですが、この設問に対する答えは比較的簡単です。硫黄は作物が吸収出来れば大部分の作物は少しの量でも反応して収量が増加し、品質が向上するからです。
作物へ供給する硫黄の供給源は主に3つあります。土壌中にもともと蓄積されているもの、有機物から生じるもの、無機肥料から得られるものの3つです。 土壌中への硫黄の蓄積は一朝一夕にはなされません。 また有機由来の硫黄は作物に吸収されるためには無機化のプロセスが必要ですが、多くの硫黄成分は無機化する過程で失われてしまいます。 また無機化のパターンも予測がつけにくく有機態の形で硫黄が十分に含まれている土壌でも硫黄欠乏となることがあります。この現象は糞堆肥として硫黄量としては十分に含まれている草地での栽培実験でも、無機肥料由来の硫黄が作物に反応が見られることからも実証されています。
硫黄成分を含む無機肥料施肥は硫黄欠乏を防ぐための最も一般的な方法です。 また硫黄の形態も重要となります。硫黄単体(硫黄元素)では植物が吸収出来る様になる前に酸化のプロセスが必要となりますが、硫酸態硫黄は植物に吸収されるという点で最も確実な効果が期待できることが実験でも分かっています。
硫黄が植物に吸収されるようになるためのプロセスには時間がかかり、土壌や気象条件によっても異なります。 土壌中にある時の硫黄の性質は窒素に似ていますが(すなわち鉱化作用と移動性)、植物体内に取り込まれた硫黄の性質は窒素とはまったく異なります。窒素は植物体内で簡単に転流し、作物の生育が進むにつれて古い葉から新しい葉に移動します。 一方で硫黄は窒素とは反対に転流が鈍く古い葉に留まることが多い為、硫黄欠乏の症状は最も若い葉に最初に現れます。
硫黄はN + S(窒素・硫黄配合)肥料を「少しずつ、頻繁に」施肥するのが効果的です
硫黄の性質を考えると硫黄を管理するための正しい戦略は、窒素分施のタイミングに併せて回数を分けて少しずつ施肥することになります。 3月、4月、5月まで作物の要求量に合わせて少しずつ回数を分けて施肥するのが、硫黄の投下資本利益率(ROI)を最大に高める方法です
試験ではこの方法によって当用期の早い段階に一度に大量に施肥した場合との比較で収量が約4%上がり、小麦では約0.38トン/ ha、油糧種子では0.5トン/ ha増となることが示されています。 単肥を一度に大量に施肥することは省力化という観点では合理的に見えますが、他の栄養素との相互作用でマイナスの影響を生み出すため避けた方が賢明です。単肥を一度に大量施肥することを避ける目的は、生育期を通して作物の栄養要求量を適度に満たすバランスの取れた栄養管理戦略を維持するためです。
セイヨウアブラナにおける硫黄源と供給タイミングによる収量の比較試験
左縦軸(ha当たりの収量:単位トン)
右縦軸(作物中の硫黄含有比率:単位%)
棒グラフ:
左:慣行法(硫黄施肥なし) 中央(硫黄元素を秋に施肥) 右(硫化態硫黄を春に施肥)
その次の設問は、「必要な硫黄の割合はどれくらいですか」です。 これは近年よく議論される話題であり、施肥量が多いのが正しいことを示唆するいくつかの推奨例があります。 この推奨事項を検証するための施肥試験がこれまでに行われておりますが、現在のところはっきりとした結果検証は出来ていません。現在のアドバイスでは穀物では45〜50 kg SO3 / ha、油糧種子では50〜75 kg SO3 / haを目標としています。 この投入量のアドバイスもこれまで見てきたように、施肥回数を最低でも2回以上に分けて行うことで栄養素の利用効率が向上するということを忘れないで下さい。 推奨を超える硫黄投入量(100kgSO3/ha以上)になると他の栄養素とのバランスが乱れてマイナスの影響が出てくる恐れがありますので注意して下さい。
施肥回数を分けて最適な量の硫黄を入れることで、どれぐらいの投資資本利益(ROI)を期待できるのか?という疑問が出てくるものと思いますが、これまで英国で行われた試験の結果では穀物で約0.3 t / haの収量増、油糧種子では約0.5 t / haの収量増が確認されています。 硝酸塩と硫酸塩の粒状製品を使用すると、投資額1ポンドあたりのリターンが2〜10ポンドになります。(1ポンド=約137円:2020年8月28日現在)
リン酸とカリが必要な場合はNPKS肥料を使用してください
これまで見てきた硫黄による収量増の効果は、硫黄だけがその制限要因となっている場合に限った話であり、他の栄養素も問題となる場合はそれらの栄養素についても対処する必要があります。 春の初め(2月、3月)は土壌が寒く湿っていますが、この時期は通常リン酸とカリウムが吸収されにくい時期にもなっています。 この時期に使用すべき肥料は「春のスターター」的な肥料であり、根や芽の初期生育を促進するために役立ちます。 春先にしっかりと根を成長させることにより植物は根毛を伸ばして土壌中のク溶性リン酸にまで辿り着き根酸の作用でリン酸を吸収し、高収量を取る為に不可欠な地上部の茎葉の成長を促します。窒素・硫黄以外の必要成分が加わることで肥料の選択が少しだけ複雑になりますが、それほど難しいことではありません。
春の一番最初に施肥する肥料の選択を硝酸塩(N)と硫酸塩(S)の粒状品(NS)から、リン酸(P)とカリ(K)も配合された複合化成品(NPKS)に切り替えればいいだけの話だからです。各栄養素の投入量の目安としては1ha当たり35〜50 kgの五酸化二リン(P2O5)と酸化カリウム(K2O)を、50 kgの窒素と20〜25 kgの無水硫酸(SO3)となります。 この栄養素量のバランスは冬の間に失われてしまう根や新芽の成長をさせなければいけない春先に可能な限り最高のスタートを切らせるのに理想的です。 窒素・硫黄以外にリン酸、カリも加えた複合化成肥料を春先一番に施肥する利点についての調査は各国にまたがって行われてきておりますが、予想される収量増は窒素に硫黄だけを加えた場合との比較でさらに0.25〜0.3 t / ha増が期待出来ます。
日本で購入できるYaraのNKPS複合化成肥料
YaraMila コンプレックス 217
12-11-17 + 20% SO3 – NPKが一粒一粒に配合された高度化成肥料。苦土と硫黄に加えて微量要素も入っており、元肥・追肥として露地・ハウス栽培作物に幅広く使えるオールラウンド肥料です。
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本記事は、Yara英国法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。
Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~
Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。
また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。